医療機関は、患者や家族と十分な信頼関係を築いて医療を行う責務がある。特に、人生の最終段階における医療においては、患者に適切な情報の提供と説明を行い、患者本人による決定を基本としたうえで、医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。これらについては、通常の診療において、すでに経験的にも行われていることであるが、より質の高い医療を提供するにあたり、本指針を参考にすることが望ましい。
岐阜県総合医療センターでは、人生の最終段階を迎える患者がその人らしい最期を迎えられるよう、「人生の最終段階における医療・ケアプロセスに関するガイドライ ン」を中心に、「Ⅴ.参考資料」に示す学会等で策定されたガイドラインなども踏まえ、患者及びその家族と主治医を含む現場の医師及び看護師等の医療関係者で構成されるチーム(以下、医療・ケアチームという。)とで十分に話し合い、患者の意思と権利 が尊重されたうえで、適切な意思決定を行えるよう努める。
また、方針の決定が困難と考えられた場合においては、コンサルテーションが可能な体制を活用する。 なお、本指針は生命を短縮させる意図を持つ積極的安楽死は対象としない。
などが挙げられるが、どのような状態が「人生の最終段階」であるかは患者の状態を踏まえて、医療・ケアチームによって判断する。
心肺停止時に、心肺蘇生行為を行わない医師による指示のことをいう。心肺停止時の心肺蘇生行為とは、心臓マッサージ、電気的除細動、気管挿管、人工呼吸器の装着、強心剤の投与など心肺蘇生のためのすべての手技、処置、投薬を指す。いわゆる終末 期状態の患者に対する治療方針の選択とは異なるので、混同してはならない。
患者、家族からの要請(事前指示書あるいは口頭で明確な意思表示)が出された場合、それをもとに医療・ケアチームは患者、家族とその後の方針を検討する。DNAR指示を考慮する時期については、患者の病状や理解能力、感受性などを考慮し、画一的ではなく個別的に対応する。
人生の最終段階における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更及び中止の判断 が大変難しい場面がある。特に中止に際してはその判断に苦慮する場面が多く、患者の死亡に結びつく場合もある。従って、医療・ケアチームが人生の最終段階における医療及びケアの方針決定を行う際は、慎重でなければならない。また、患者が望む場合、医療・ケアチームは可能な限り疼痛やその他の不快な症状を緩和し、患者及び家族等の精神的・心理的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行う必要がある。
そのうえで、人生の最終段階における医療及びケアの方針決定における基本的な手続きは次によるものとする。
意思決定能力のある患者はいつでも「DNAR指示」を要請できる。要請を受けた主治医(担当医)は速やかに患者、代理意思推定者(家族など)と協議を行なわなければならない。この際、客観的な医学的判断の妥当性を評価し、この文書における患者の意思が尊重される。
患者の意思確認ができない、あるいは困難な場合には、次のような手順により、 医療・ケアチームの中で、慎重に医療上の判断を行う必要がある。
患者の意思決定能力がある時に書かれた「終末期状態で心肺蘇生行為を拒否することを明示した文書」(事前指示書)がある場合は、客観的な医学的判断の妥当性を評価し、この文書における患者の意思を尊重しなければならない。
上記(1)及び(2)の場合における方針の決定に際し、以下の場合等については、メディエーターを通じて、臨床倫理コンサルテーションチームへの相談、さらに重大案件と判断した場合は臨床倫理委員会での協議など、医療・ケアチーム以外の者を加えて、治療方針などについて検討及び助言を行う。
障害者や認知症等で、自らが意思決定をすることが困難な場合は、厚生労働省が作成した「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン」 を参考に、出来る限り患者本人の意思を尊重し反映した意思決定を、家族及び関係者、医療・ケアチームや認知症ケアチーム等が関与して支援する。
身寄りが無い患者における医療・ケアの方針についての決定プロセスは、本人の判断能力の程度や入院費用等の資力の有無、信頼できる関係者の有無等により状況が異なるため、介護・福祉サ ービスや行政の関わり等を利用して、患者本人の意思を尊重しつつ厚生労働省の「身寄りがない人の入院及び医療に係る、意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を参考に、医療・ケアチームやソーシャルワーカー等が関与して、その決定を支援する。